時は1399年 イベリア半島の中心部を領するカスティーリャ王国にて物語は始まる。
「わしは、ローマ皇帝になりたいのう」 エンリケ3世の呟きに重鎮たちはどよめいた。 落ち目とは言えローマ帝国、カスティーリャと同等な戦力を要する構成国はオーストリア、ボヘミアがある。 現在の皇帝国はボヘミア、構成国からの支援を受けその国土に比例しない軍事力を持つ。 そしてその前にアラゴン、フランスといった強大な国が道を閉ざす。 「我が王、正気で御座いましょうか」 宮廷顧問が一人、知謀家であるベラスコが問いかける。 「狂ったとでも思うてか。無理もない、しかし今の帝国には弱点がある」 そう、大きな領土を誇る帝国ではあるが無数の構成国に細分化され、選帝侯という名の小国に皇帝の任命権が委ねられているのである。 「選帝侯さえ押さえれば皇帝にはなれる」 再びどよめく宮廷。 ベラスコは打算的に考える。 選帝侯さえ押さえればいいのは然り。しかしそれは構成国内部の国々の方が圧倒的に優位ではある。構成国同士はゆるいとは言えつながり合っており、外部からの侵略にはほぼ一丸となって対抗するだけのつながりはかろうじて保っていた。 そして現在の皇帝国ボヘミアも、皇帝の恩寵を与えるという形で選帝侯達との友好を維持しており、構成国でないカスティーリャの不利は明らかではある。 ではあるのだが、カスティーリャ王は代々野心家である。その心の内に世界を全て手中に収めるという野心を隠しもしない。 よってこれは単なる呟きではなく、実行するという宣誓にも等しかった。 「では、まずは同盟を結び友好を深めることから初めてはいかがでしょうか」 ベラスコの提案に、エンリケ4世は含むところがありそうな表情で頷いた。 「任せた」 その一言で外交官たちへ支持が下る。 現在の選帝侯である ケルン・マインツ・トリアー・ブランデンブルグ・プファルツ・ザクセンこの六ヶ国のうち、ルクセンブルク王に統治されているブランデンブルグを除いた五ヶ国へ同盟の使者が飛ばされる。 それとは別に王から軍の増強命令が発せられた。現在騎兵2歩兵4を基本とした1部隊、首都トレドの守備兵として歩兵1の部隊が配備されているが、それを騎兵2、歩兵4を基本とした4部隊まで増強するというものである。 現在のカスティーリャは至って平穏ではあるものの、隣国のアラゴンは隙あらばカスティーリャを侵略しようと虎視眈々と狙っている。さらにイベリア半島南端に位置するグラナダという異教徒の国。これは直ぐにでも末梢すべき目障りな国であった。それらを見据えた軍備増強と思われる。 ……それにしては多少過剰気味な感は否めないが。
ともあれカスティーリャは軍備増強のために国庫を空にしたため、翌年を待つまで静かに時を過ごすことに成る。 翌日、同盟の使者への返答が伝令として伝えられた。 「大司教領からは皆同盟を断られました。王国であるところのザクセン・プファルツからは是非にとのことで」 その報告を受けたエンリケ3世は 「思ったよりも少なかったの」 と、大して気にもとめてない素振りで返事をしただけであった。 「外交官達が戻り次第、2国へ婚姻の使者を飛ばせ」 その意図するところは外交による属国化であることは直ぐにベラスコにも閃いた。 大司教領は君主を頂点として抱かない国であるために使えない手段ではあるものの、王国である2国を完全に制御するには良い手法であった。
1400年
選帝侯との同盟の使者となった外交官が戻り、悪い知らせが入ることになる。 「婚姻なのですが、すでに両国とも多数の申し込みが有り、我が国からの婚姻まで受け入れる余裕があるとは思えませぬ」 一瞬だけ思案顔になるエンリケ3世 「良い、あくまでも手段の一つである。では、隣国のアラゴンへ婚姻の使者を向かわせよ」 直ちにと、外交官はかけ出して行く。 アラゴンからは即座に了承する旨が伝えられ、盛大なる式が行われた。 さらには北方の海賊国家、イングランドとも婚姻が結ばれることとなった。
そして、騎兵2、歩兵4を基本とした3部隊の編成が終わり、グラナダ国境への配備が完了した。 あとはエンリケ3世による宣戦布告を待ち、グラナダへの旧領奪回の戦争の幕開けである。 グラナダは三つのプロバンスを要する。とは言えカスティーリャに比べては明らかに弱小国である。よって3部隊がそれぞれ同時に侵攻し、一気に全土制圧を行う手はずであった。 「さて、同盟は参戦してくるものかな」 どちらかというとそれを望んでいない様にも見受けられる表情で、エンリケ3世はつぶやき宣戦が布告された。 そして3部隊がグラナダへ進行する中、同盟国の状況が伝えられる。 「ザクセンは同盟に則りグラナダ・アルジェ・モロッコへ宣戦、プファルツは参戦を拒否いたしました」 それを聞いたエンリケ3世の顔に嫌な笑みが浮かぶ。 「ふふ、名目が手に入ったわ」 そう、同盟を結んだ目的は「参戦拒否」という名目を手に入れるためであったのである。 「グラナダを処理した後に向かうぞ」 エンリケ3世は完璧に悪役の顔で笑いながらそう告げる。 外交官は恐怖に顔をひきつらせながら黙して礼を取り、下がっていく事となった。
1401年
数度の突撃の末にグラナダを下し、旧領の一つであるアルメリアのみを割譲させたカスティーリャは、途中の国々には通行許可を得、全ての部隊をプファルツに向け進軍させる。 1402年 年明け早々にプファルツの3領に隣接する国々に部隊を配備したカスティーリャが参戦拒否を理由にプファルツへ宣戦を布告、あわせて、両国の同盟国であるザクセンからも参戦拒否が伝えられる。 「順調だな」 そう呟くエンリケ3世はやはり歪んだ笑顔を受けべていたという。 船倉の準備などしていなかったプファルツは計8千の部隊を要するも、維持費を十分に割り振っておらず一方的にカスティーリャ軍に蹂躙され、三月と持たずに二つのプロバンスを落とされ、属国となることで休戦を結んだ。 プファルツ戦を主導するのは新皇帝となったハンガリーであった。 遠く領土の離れたこの国からは痛み分けとして終戦する旨が伝えられてくるも、カスティーリャはそれを拒否。その理由はマイセン、チューリンゲン、アンハルトという次の目標であるザクセンを取り巻く国々が参戦してきているからであった。 このまま痛み分けとしても、通行許可が得られるとは考えにくいためである。
3カ国のうちもっとも手前にあるチューリンゲンの2領を集中的に攻め、チューリンゲンの属国化も完了。その時点でザクセンへも宣戦布告し、プファルツ戦盟主のハンガリーとは痛み分けにて休戦条約の締結に成功した。 1部隊のみをザクセン包囲軍として残したカスティーリャは順次本国へ部隊を引き上げさせ、グラナダ戦の同盟国であるアルジェ・モロッコへ当たらせるのであった。
1404年
新規に編成された1部隊を含め、ドイツ中央部から帰還した部隊はモロッコ・アルジェのイベリア侵攻部隊を排除した。 エンリケ3世は王座に深く腰掛け、思案に暮れていた。 大義名分から外れる属国化を行ったことにより、近隣各国からカスティーリャを見る目が厳しくなっている。それ自体は最初から予定していた事ではあるのだが、まだ2国しか選帝侯を押さえて居ない状況でこれ以上の悪化は避けたいという思いもある。 そして、ザクセン陥落の報と同時にもう一つ朗報がもたらされる。 ザクセンは即時の属国化及び軍事同盟を締結。もう一つとは、教皇庁の御者を我が国が担う事となったという知らせである。エンリケ3世は即座に決断を下す。 「ブラバントを破門せよ」 ブラバントはオランダ中央部に位置する小国であり、選帝侯トリアーと同盟を結ぶ国でもある。 本国の守備として2部隊を残し、残る3部隊をオランダへ向かわせるカスティーリャ。幸いなことにオランダ地方を淡々と狙っているブルゴーニュは休戦中で、余計な横槍も入る心配が無さそうである。
1405年
トリアー・ブラバントへの国境へ兵を配置し、宣戦布告。 1406年
破門した元首であるため、ブラバントへケルン・ブルゴーニュが宣戦しその領土を狙っている。そのためあえて休戦協定を結ばずに部隊をトリアーへ向かわせる事になる。うまく運べば守備部隊が回復後に属国化で休戦協定・同盟を結び、同盟への戦争を理由にケルンへの大義名分も手に入る算段である。 トリアー陥落の報を受けたエンリケ3世はすぐさまブラバントへ属国化での休戦、及び同盟の使者を遣わす。そして同盟への宣戦を理由としてケルンへ宣戦布告を行った。 ケルンはブラバント占領へ兵を割いていたためあっさりと陥落する。 皇帝国ハンガリーはこちらの属国であるチューリンゲン・ザクセンを占領していたため戦況は不利。エンリケ3世は属国が占領されているのを気にも止めず、目的は達したと全部隊を本国へ帰投させるのであった。
後日、形だけではあるがカスティーリャが敗北を認める形でハンガリーのメンツを立て、休戦協定へ調印することとなった。
この一連の戦争でカスティーリャは選帝侯7カ国のうち4カ国を属国として手に入れた形となり、その代償として、BBR18.5/35とローマ帝国構成国からの友好度マイナス0~50という負債を背負うこととなった。
1407年
本国へ帰還したエンリケ3世を待っていたのは、ブラバントがブルゴーニュとユトレヒトに取り分けられる形で消滅したという悲報であった。 「選帝侯が2国も釣れた良いデコイであったわ。いずれ復興させてやろう」 そう呟くエンリケ3世は完璧に悪人面だったという。
1408年
エンリケ3世の元に教皇領の情報が届く。 教皇領がスイスと同盟し、フェッラーラへ宣戦したもののスイスには参戦拒否され、ミラノ・ナポリ・ベネチア・アクイレイアetcに返り討ちに有った。ロマーニャをフェッラーラへ割譲しローマのみとなった教皇領がイタリア半島にて孤立しているとのことであった。 「神の代弁者たる教皇が神の守護を得られなかったようだな」 嘲笑混じりにそう呟くエンリケ3世。 「ならば、カスティーリャが神に代わって救いの手を差し伸べてやろう。同盟の使者を遣わせ」 この時代に置いても欧州の統治者は誰も真面目に神などを信じては居なかった。 宗教というのは民衆のコントロールのために必要な統治手段であり、エンリケ3世もまた神の存在を信じていないながらカソリックというものを信仰していた。 それゆえに、教皇領が権威を無くすことは混乱の時代が始まる前触れであることをよく理解していたのである。 後日教皇領から同盟を受諾するとの返答を受けた。
グラナダとの休戦協定が開けていたためグラナダへの宣戦を行ったが、せっかく好意で手をさしのべた教皇領から参戦拒否が伝えられる。前々からイベリアから異教徒を追い出せと言い続けてきた教皇領が。 「あれはもうダメだな。わしが変わって支配してやろう」 エンリケ3世は苦々しそうな顔をしながらそう呟いた。 グラナダへ3部隊を投入、海上輸送にてローマ近海へ1部隊を輸送。いざ宣戦という段になって兵士たちがどよめく。 「ほうき星だ!」 ほうき星は災厄の象徴と信じられており国民は神の代弁者への宣戦に強く反対することになる。 「ふん。あれは災厄たる教皇が落ちるという暗示であるわ」 エンリケ3世は気にも止めずに宣戦を行った。
教皇領はろくに抵抗も出来ず制圧された。エンリケ3世は上告禁止法を制定し、カスティーリャこそ神の国であるから、教皇領が落ちたのであると宣言し、ヨーロッパ中に衝撃を与えることとなった。落ちた教皇領は属国として扱われ、外部への牽制として使われることと成る。