xx
17世紀の世界地図
スペイン王、ナポリ王、シチリア王、ブルゴーニュ王にして、ガリシア公、バルセロナ公、ロレーヌ公、ミラノ公、サルデニア公、クレタ公にして、新大陸におけるメキシコとアメリカの王、西インド諸島とモロッコと東アフリカ海岸の征服者にして、インドとモルッカ諸島における東インド会社の筆頭株主。
要するにスペイン・ハプスブルク家はいまや日の沈まぬ帝国となった。
問題はこのスペイン王がミラノ公位をもっていることである。 ロンバルディア州の領有はイタリア建国条件の一つであるから、スペインからミラノを取り戻さなければ、イタリア建国ができない。
アレッサンドロ1世に対スペイン戦争の決断を促したのは、イングランドからの使者だった。
「イングランド王はトスカナ大公と同盟を希望しておりまする。」
イングランド王の考えは手に取るようにわかった。*1 イングランドは大航海時代以来、スペインとポルトガルに対抗して新大陸への植民をすすめてきた。 新大陸ではラテンアメリカとメキシコをスペインが有し、ブラジルをポルトガルが、北アメリカをイングランドとその他の諸国が植民している。 日の沈まぬ帝国スペインは近頃、ラテンアメリカとメキシコの金山から得た収入で海軍を増強し、彼らの征服者はミシシッピ川を越えて北アメリカに侵入している。 北アメリカに植民地をもつイングランドにとっては、なんとかスペインの勢力を削ぎたい。 スペインは敵だ。敵の敵は味方だ。という具合に、トスカナ大公国はイングランドに味方認定されたのではないだろうか。
だが、こうした理由はほんとはどうだっていい。 海軍。海軍が手に入ったのだ。喉から手が欲しかった海軍が!
イングランド海軍はキャラック70隻にも及ぶ大艦隊である。 トスカナ公国はこれまで海軍に力をいれておらず、ガレー船が30隻あるだけにすぎない。 トスカナのこの海軍力の貧弱さは、アレッサンドロ1世をして対スペイン戦争を思いとどまらせていた。 しかし事情は変わった。 スペイン海軍はイングランド海軍が何とかしてくれる。 あとはスペイン陸軍だけだ。スペイン陸軍はトスカナ公国とフランス王国が何とかしよう。
1661年、アレッサンドロ1世は「ミラノ公国の継承権はトスカナ公にある」と言い、軍を率いてミラノに入城した。 なるほど、ポンテッリ家とハプスブルク家はたしかに婚姻関係にあったし、そう言ってしまえばそうかもしれない。 しかし、スペインを実質的に支配していた宰相オリバーレス公は、アレッサンドロ1世の言葉を動きを最初聞いた時、彼は気が狂ったんだと思った。
というのも、スペイン・ハプスブルク家が代替わりしたのは半世紀ほど前のことだし、スペイン・ハプスブルク家とポンテッリ家とが婚姻関係があるといっても、それはどちらかの父の父の妹の従妹が夫婦だったとか、そういった類の話でしかない。 しかしトスカナに続いてフランスが、そしてイングランドが、スペインに宣戦布告したという知らせを受けて、宰相オリバーレス公は、これが断じて精神障碍者のしわざではないということを悟った。 これはイタリアの建国とフランスの統一、新大陸におけるパワーバランスの変更を目論んだ、周到に準備された戦争である。これはイタリアとフランスの妨害、新大陸における権益維持を国是としていたスペインへの攻撃である。これは世界秩序への挑戦である。
xx
ミラノ入城を果たしたアレッサンドロ1世
アレッサンドロ1世はミラノに入城すると、ハプスブルク家から派遣されていた総督を逮捕し、ミラノはいまやイタリア人の都市になったと宣言した。 テムズ川からは大艦隊が発進し、パリからはルイ14世に率いられた30000の大軍がブルゴーニュに侵入した。
「戦局はどうなっている?」
「イタリア半島ではスペインの抵抗は見られません。 ミラノ、サルデーニャ、ナポリ、シチリアには軍らしい軍は見当たりません。」 「ブルゴーニュでスペイン軍35000と32000を視認。フランス軍より多いです」 「スペイン海軍は新大陸に配置されている模様。 イングランド海軍とどちらが勝つか分かりませんが、 イングランド海軍はキャラック70隻を有してドーヴァ海峡を西へ向かいました。」
アレッサンドロ1世はしばらく考えた後、
「フランスに兵をむけい」
と指示した。
ブルゴーニュのスペイン軍を側面攻撃し、フランスの作戦行動を助けるのが目的である。 アレッサンドロ1世率いるトスカナ軍40000は、南フランスでスペイン軍20000と遭遇。
これを殲滅した。
xx
[[続く>]]