キリストの武装せる腕――チュートン騎士修道会興隆史

十字軍の残光

 十字軍がほぼ終わり、時代に取り残されつつあった宗教騎士団であったが、ここは欧州の辺境のドイツのそのまた辺境のプロイセン。ルーシと接する田舎では事情が違った。

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騎士「異端と異教は消毒だ!! 十字軍で果たすことの出来なかった偉業をこの辺境で果たすんだよ!!」

司教「よしやれほいさっさ! 野蛮人は消毒だ!!」

 パレスチナでは失敗した十字軍が今なお続いている。それは王権が強まり、自国では肩身の狭い思いをしていた騎士たちに夢を与え、ドイツのみならず、フランスやイングランド、遠くスペインからも志願者が流れてきた。勿論、実際には比較的最初から居着いた騎士に連なる家系が政権を牛耳っていたが、それでも一定の働きをすれば栄誉や年金にありつくことが出来た。

 戦費確保のために金融業を始めていたことも功を奏し、騎士への報奨を給与で行うことが出来る数少ない国となっていた。テンプル騎士団の二の舞を恐れる声もあったが、ドイツと言う辺境であったことと、実質的な軍事力を確保していたため、彼らを脅かすことは出来なかった。金融で得た資金を背景に、商人を各地に派遣し、資金と文化の蓄積に務めていた。

 軍事力の強さにも定評があり、はポーランド・リトアニアを打倒したことで裏書きされている。近年はポロツクを侵略したロシアから保護するという名目でポロツク属国としている。その軍事力は秘密は上述にあるように、各国から来た騎士たちを戦力の中核に据えることで維持している。その精強さは共同戦線を張ったオーストリアでも語り草となっている。

 反面、農民は騎士たちの都合で虐げられ、搾取されていた。ホッホマイスター・コンラート5世は先代の方針を反故し、一転して農民の自由を奪い、それそ強引に抑え込んだ。彼は農民が力を持ち、

 この体制が維持されたのは、騎士と聖職者を優遇して軍事に重きを置き、いかなる反抗も粉砕したことが大きい。異端との戦いを大義に掲げ、整備された軍隊はすんなり人民の弾圧に転用される。いくら鎮圧しても湧いて出てくる反乱軍に反抗の芽は騎士たちの訓練としても機能しており、その練度の維持に一役買っている。

 この強権的な支配が続いているもう一つの理由があった。聖遺物の存在である。

ルーシの聖遺物?

 コンラート5世はオストプロイセンで発掘された槍の穂先をかつて、救世主を貫いた神なる槍だと言い張ったのである。そのお粗末さは今日の研究者の目からは勿論、当時の知識人の目から見ても酷いもので、そもそもパレスチナで救世主を貫いた槍が何でオストプロイセンなんぞにあるんだ? という極当たり前の疑問すら極めて疑わしい説明しかなされていないのである。

騎士「というわけで、この聖遺物を我々騎士団のシンボルにしろ」

司教「こんな棒っきれにそんなことやっても、誰も信じな」

騎士「よし、ならお前でこれの威力を試して」

司教「何を仰います騎士様。わたくしにお任せください。見事に鑑定してませすよ」

騎士「これは聖約・運命の聖槍(Longinus Lanze Testament)と言う。これの由来はオストプロセンに実はやってきていた聖ヨハネが、ローマの刑場からもってきた槍をこの地にもってきて、真実の教えを広めんと尽力した際の助けになったのが、この槍ってわけだ」

司教「(愚民だってこんなの信じねーだろ)」

騎士「続いて取りだすのが」

司教「まだあるのか」

騎士「奇跡・東方円卓(Ostern Tafelrunde Wunder)だ。聖杯探索に出た円卓の騎士が、異教徒が渦巻いていたかつてのルーシで築いた仮の円卓だ」

司教「これは一体何処から? 見たところ、随分と小奇麗だが」

騎士「うむ、ポーランドの貴族が使っていたテーブルがそれであることが分かったから、それを接収した」

司教「ただの盗品じゃないか」

騎士「この円卓に導かれ、この地における聖杯探索に乗り出したパルツィファル卿のもとに集ったブラウンシュヴァイク、リッテンハイム、リヒテンラーデ、フレーゲル、オフレッサーといった現地の騎士たちが織りなす物語を吟遊詩人に騙らせているところだ」

司教「(ご丁寧に全部ドイツ系だ)」

騎士「この騎士たちの物語は我々の戦いを聖戦と広く認めさせるのに是非とも必要だ、分かったか?」

司教「せめて信じてる振りしろよ」   騎士「それはともかく、そこで掘り出したこの一品はだな」

司教「これ何時になった終わるんだ?」

 これらの捏造は今日にも影響を与えており、この地を訪れた円卓の騎士と、死闘を繰り広げた伝えられているスラブの族長ヤコンは今でこそ完全な架空の人物ということになっているが、彼の生地とされる地方にその墓が10以上残されている。

 しかしながら、いくら現地の人間がそれを主張しても、他国の人間にしてみれば、滑稽極まりない妄想でしかない。ボヘミアのある貴族は騎士団本部に飾られている聖槍をガラクタとみなし、唾を吐きつけたほどである。それに怒った騎士団が攻め込み、ボヘミアは征服されるのだが、この一件は騎士団が極めてカルト的で凶暴な集団になっていることを示していた。

騎士「あのボヘミアのゴミ野郎を叩き殺してやる」

司教「モーニングスター忘れてるぞ!!」

騎士「気が利くな」

司教「しかし、君が異端者との戦い以外で、そんなに燃えあがるとは思わなかった」

騎士「あの野郎をミンチにすれば、俺の取り分が増えるんだよ。お前も手を貸せ」

司教「そんなことだろうと思った」

ドイツ諸侯の横槍(自業自得

 このボヘミア襲撃は高くついた。これで騎士団の変質を読みとったオーストリア、ブランデンブルクは共謀して、騎士団領への侵攻を開始。領土的野心がないと言っては嘘になるが、懲罰的な意味合いの強い戦いであった。二方向から攻め込まれた騎士団は苦境に立たされ、各地で敗北を重ねた。勝利は目前に迫っているかに思われたが、騎士団は彼らが考えている以上に、カルト的で凶暴、凶悪な集団だったのである。

司教「また負けてるな。ローマに行って、仲介を頼むか?」

騎士「こんなもんで、こんなもんでやられるほど、俺は諦めがよくないんだよ」

司教「私はこんなところで死にたくないのだがな」

騎士「なに、そうびびるもんじゃねえ。がむしゃらに突っ込んでみれば案外何とかなるかもしれないぞ?」

司教「従軍神父なんてやめりゃよかった」

騎士「とりあえずだ、俺たちの苦境をいいことに、調子こいてる農奴から金品ぱくって急場を凌ごう*1

司教「君は実に前向きだ。とても真似したくないね」

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 騎士団はその支配に反抗する民草を蹂躙しつつ、オーストリア・ブランデブルク両軍を相手に、粘り強く戦った。総長自らが先陣を切り、死を恐れず戦う騎士たちは総ての不可能を可能とした。ついに根負けしたオーストリア・ブランデンブルクはついに矛を収めたのである。

 オーストリア、ブランデンブルクからの挟み撃ちを経験した騎士団はこの教訓を胸に、さらに洗練された軍隊の編成を決意。彼らが真実、理解しているのは力のみだった。

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騎士「ハハーッ!! ぶっ壊れろー!!!」

司教「君らは野蛮で屑だけど、異端を改宗させることについては誰より真摯だと教皇庁は理解してるみたいだ。ここ出身の枢機卿が教皇になったのはその成果だ」

騎士「たりめーだ。じゃねーと、まんまの食い上げだからな」

司教「意外と現実的だよな、君は」

騎士「俺だってな、ちゃんと明日のことを考えて、生きてるんだよ。キャメロンの宮殿だかで見かけたねーちゃんへの忠義とかほざいてる奴らと一緒にするな」

司教「その割には、他の騎士より激しい戦場や厳しい戦いを好き好んで選んでいるように見えるな。それも神への信心ゆえか?」

騎士「気のせいだよ。俺を買い被るな」

司教「だが、君の乱行は実に酷い。そのくらいやって、ようやく釣り合うほどにな」

騎士「ふん、俺の勝手だろ」

ルーシへの道標

 保護領ポロツクを脅迫で併合すると、騎士団はロシアとの本格的な戦いを考えるようになった。商人への不誠実、国境問題、様々な口実を用いて戦端を開こうと画策していた。彼らがその欲望と獣性に身を任せなかったことは、キリスト者として最後の良心が働いていたのかもしれない。

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 いずれにしても、新時代の十字軍を成し遂げると言う意識だけは今でも存続していた。先陣を切るホッホマイスターの雄姿は兵たちを何よりも奮い立たせた。幾度となくロシア軍を打ち破ることで、その信仰を証明した。

 北への十字軍はここに大きな一歩を踏み出したのである。

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騎士「聞いたか? 騎士団は宗教改革に断固拒否するみたいだぞ」

司教「当然だ。宗教騎士団が異端を放置するとか、意味が分からん」

騎士「あいつらをさっさと、正しい教えを理解させてやらねーと、俺の給料が減るんだよなあ」

司教「君は相変わらず、自分に正直だな。私としては、異教徒や異端者を殲滅してくれれば、何も言うことはない」

騎士の明日はどっちだ?

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 ルーシでの戦いが一段落すると、この強欲な騎士団は次なる戦いを求めていた。出来そこないの「運命の神槍」を小馬鹿にした報いにしてはボヘミアの運命はあまりにも過酷だった。ボヘミアは騎士団に完全に征服され、それに強く抗議をしたブランデンブルクも服従を余儀なくされ、西の藩塀としてその下におかれた。

 その後に就任したホッホマイスター・カール・ヨーゼフ1世はそれまでのホッホマイスターとは毛色が違った。イタリアへの留学経験のあるこの新たな指導者は内政の充実を図り、蓄えた資金を軍拡ではなく、織物工場や武器工場の建設に費やした。記念碑を作り、度量衡を定めるなどをしている。これらの施策はすぐに効果は出ないが、未来へ向けて投資をするというその姿勢は、これまでの指導者と明確に異なっていた。

 このカール・ヨーゼフ1世が次に取り上げたのは、これまで騎士団の使命によって棚上げされていた重要な課題である。

騎士「そろそろ俺も疲れたな」

司教「そりゃあ、これだけ戦争続けて、民草蹂躙していれば、誰だって疲れる」

騎士「お前だって、美味い汁吸ってるだろ?」

司教「それは置いておくとして、ホッホマイスターのことは聞いたか?」

騎士「ああ、聞いてる。騎士団を解散して、プロイセン王国を作るとか言ってるんだろ?」

司教「嬉しくないのか? 有力な騎士には領土を分け与えるそうじゃないか。そうなれば、君は伯爵だ。私も司教領を与えられることになっている」

騎士「今更土民を指図して、収穫を数えるとか、性に合わねえよ」

司教「ならどうするんだ?」

騎士「さあな。俺にも分かんねえよ。いっそ、蛮族との戦いで死んでいたら、こんなこと考えなくて済んだのかもな」

司教「もう少し、真面目に考えるんだ。君の人生なんだぞ?」

騎士「ずっと騎士やってると分かるんだよ。潰しなんて利きっこないってな」

司教「家族は・・・・・・いなかったな」

騎士「こんな領地もない上に、何時死ぬかも分からん貧乏騎士に熱入れる女がいるわけないだろ」

司教「だが・・・・・・」

騎士「なんだ? 長い付き合いだから、俺に情でも移ったか? 柄じゃねえだろ。おめえ、その地位につくため、何人の先輩や後輩を追い落としたんだ? 数えてみろよ」

司教「・・・・・・・」

騎士「ま、お前は結構お利口だからな。上手くやってくれ。俺には無理だ」

 そう言って、騎士は次の戦場を求めて去って行った。この騎士が何処に向かおうとしているのか、誰にも分からなかった。

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縛り候補

 ここまで読んでくれてありがとうございました。突然ですが、すでにチュートン騎士団はかなり強くなっていて、このまま最適解を選んでいくと、簡単になりすぎるので、理不尽ではない程度の縛りを加えていきたいと思います。  そこで次回の作者は以下のいずれかを選んで、次のプレイに挑んでもらいます。どの縛りも、あくまで次の作者に限定されるもので、その次の作者には関係ありません。次の作者は新たな縛りを次の作者に課すことが出来ます。

 次の作者がどれを選んだのかは、次回をお楽しみください。


*1 戦争税と反乱鎮圧

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